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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7424号 判決 1957年2月04日

日興信用金庫

事実

被告日興信用金庫は、昭和三十一年九月十二日訴外都北木工株式会社に対する強制執行として、公正証書の執行力ある正本に基き右訴外会社において数点の有体動産の差押をさせた。これにつき原告は、右有体動産(以下本件物件と称する。)は、もと前記訴外会社の所有であつたけれども、同会社の国税滞納のため公売処分に付せられたところ、昭和三十一年七月五日訴外楠井昇が落札によりその所有権を取得したのであるが、更に右同日原告が訴外楠井昇から売買によりその所有権を取得し、且つその引渡を受けたものである。そして原告は、本件物件の保管を訴外都北木工株式会社に依頼し、原告においてこれを引き取るときまで同訴外会社がこれを使用することを許容していたのである。すなわち、本件物件の所有権は前記差押当時既に原告に属していたのであるから、被告が訴外都北木工株式会社に対する強制執行として本件物件につきなした差押は失当であるのでその排除を求めると述べた。

被告日興信用金庫は、被告が原告の主張する債務名義に基き、原告主張の日時場所において本件物件の有体動産に対して差押をしたこと及び本件物件がもと都北木工株式会社の所有であつたところ本件物件に対して原告主張の如き公売処分が行われ、訴外楠井昇が落札によりその所有権を取得したことは認めるが、原告主張のその余の事実は不知であると述べた。

理由

被告が訴外都北木工株式会社に対する強制執行として公証人作成にかかる公正証書の執行力ある正本に基き、昭和三十一年九月十二日東京都荒川区尾久町六丁目の右訴外会社において、執行吏をして本件物件等数点の有体動産につき差押をさせた事実、本件物件がもと訴外都北木工株式会社の所有であつたところ、同会社の国税滞納のため公売処分に付せられ、昭和三十一年七月五日訴外楠井昇が落札によりその所有権を取得した事実については当事者間に争がない。

ところで証拠を総合すれば、原告は、昭和三十一年七月五日訴外楠井昇が右の如く落札した本件物件について、同人と売買契約を締結してその所有権を取得し、同日本件物件の所在する訴外都北木工株式会社に赴きその引渡を受けたが、原告においてこれらを搬出するときまで、訴外都北木工株式会社にその使用を許容して本件物件の保管を依頼したことが認められる。

してみると本件物件は、被告が前述の如くこれを差押えた当時には既に原告においてその所有権を取得し、且つその引渡を受けていたのであるから、本件物件が訴外都北木工株式会社の所有にかかるものとして、同会社に対する債務名義に基いて本件物件を差押えた前記強制執行の失当であることは明らかである。

さすれば本件物件に対し所有権を主張して右強制執行の排除を求める原告の本訴請求は正当であるとしてこれを認容した。

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